灘区

これから、幾日の間と、日限を切って、その間に、どっちがはやく悪人どもを一縛げにするか、命を賭して、競ってもよい」そう言って、壮者のように、眼をかがやかせる老修理を、これも、愛子を救いたい一念に、常の落着いた隠者の態度をとりみだしておられるのかと水漏れは気の毒そうに眺めて、「折角ですが、老修理。もはや事件はあまりに片づいております。もう、そんな時刻はありません」「なに、時刻がないとは」「されば、今夜ももうだいぶ更けました。実をいうと、水道の生命も、この、星の光が滅するまでです。夜明けと共に、この水漏れ 灘区の前で、断罪になることになっています。すでに、御老中のご印可が、きょうの午すぎには下りていたのですが、武士の情けに、一晩だけ延ばしてあるわけなので……」「えっ!じゃあ何というか、あの、もう御老中たちの、印可まで、下りているのか」「ごらんなさい」水漏れは指さした。「あの樹蔭には、あしたの朝の荒むしろ、水漏れ 灘区を掘る鍬の道具まで、運んで来てあるのです」「罪だ!罪だ!何のうらみがあって、それを、一晩、水内から見せておくのだ」